グァテマラ ウェウェテナンゴ ドン・アントニオ ワイニ―
太平洋とカリブ海に挟まれた中米の国グァテマラ。
外貨獲得の主要作物だった天然インディゴが化学染料の発明によって減少した1856年以降、コーヒーはこの国の貴重な換金作物となりました。
グァテマラには、8つのコーヒー生産地域がありますが、ほとんどが山岳地域なので、面積としてはそれほど大きくありません。
香りが抜群で酸味と苦みのバランスが良いので、日本でもとても人気あるコーヒーです。
ウェウェテナンゴ地方は、グァテマラの首都グァテマラシティーから車で7時間ほど離れたメキシコに近い太平洋側の山岳地帯にあります。
マヤ族の言葉で「太古の場所」「先祖の場所」という意味を持ちます。
ドン・アントニオ農園は標高1700~2200mと、ウェウェテナンゴの中でも最も標高の高い地区にあり、コーヒーの栽培に適した乾いた石灰岩土壌です。天候は雨が少なく日中は霧が立ち込め寒暖の差が激しい地区でもあります。
加えて、隣のメキシコ テワンテペク地峡から乾燥した熱風が山に上がって吹き込む位置にあるため、霜が発生しにくい地理に恵まれています。
ワイニ―とは、精製方法のひとつです。収穫した実を果肉がついた状態で天日干しすることで、そのフルーティで甘酸っぱい香りが種子に移ります。
いわゆるナチュラル製法とほぼ同じなのですが、湿度が高い状態をあえて持続させることで、赤ワインのような芳醇な発酵風味が生まれます。
発酵臭が苦手な方にはパンチがありすぎる豆ですが、飲み慣れるとクセになります。
生豆の状態でもワイニ―特有の強い発酵臭がします。茶色くなったシルバースキンが取れていない豆が多く、どこまでを不良豆とするか、ハンドピックでけっこう悩みます。
焙煎は中煎り。火力弱めからスタートし、イチハゼ後にさらにぎりぎりまで火力を落として2分切るくらいで煎り止め。最後は色で決めていく感じです。
今回の焙煎は雨で工房の湿度が高かったので冬のわりには焼きやすかったです。
焙煎記録:ブレンド「笹鳴」
1月の定期便ブレンド「笹鳴(ささなき)」
秋冬は山から里へ下りてきて笹薮の中で越冬するウグイスの地鳴きのこと。チッチッと鳴くそう。聞いてみたい。
豆は5種。プリミックス、中深煎り。
・ブラジルサントスno.2
・エルサルバドル マハワル モンターニャ
・グァテマラ アンティグア ラ アゾテア
・タイチェンライ オリエンタルファズ
・エチオピア グジ クオリティ1
ベースのブラジルサントスno.2 ビターな感じを出したかったので、普段ほとんど使わないブラジルをメインに。今回はプリミックスで。サントス港に集荷された豆のミックス。産地もおそらくばらばら。
ブラジル、想像以上に状態は悪い。12.5%減。状態が悪いというよりは欠点豆が多い。特に虫食いと発酵。最近はシングルオリジンばかり使っているので、スタンダードはこんなものだっただろうか、と思う。焼き上がりは殻豆が多く、スカスカ感がある。
エチオピアグジ クオリティ1。相変わらずのきれいさ。ブレンドには欠かせなくなったグジ。イルガチェフェ、マタリ、ハラ―、などに比べてフルーティ感は弱めだけれど、苦みの強い豆との相性が抜群。
グァテマラ アンティグア。半端に残っていた豆を少々投入した感じで、あまりブレンドに影響はない。バランスの良い豆なので少々使うくらいだと前には出てこない。
エルサルバドル。豆の状態はとても良い。これもつなぎ用に使う感じ。あまり前面には出てこないように。
タイチェンライオリエンタルファズ。
昨年のロットはあまり良くなかったので、もっぱらブレンドに。ニュートラルでほわっとしていて甘みもあるのでハンバーグでいうところの、パン粉的なつなぎ。
3kg2時間のハンドピックを先に済ませてからミックス。焼き上がりは、ビターな感じは良く出ているもののグジの抑えが効きすぎた感じも。もう少しブラジルらしさを推しても良かっただろうか。
ニカラグア ヒノテガ バジェダンタリ ジャバニカ
なにかの呪文のような名前の豆ですが。
ニカラグアは、中米の太平洋とカリブ海に挟まれた小さな国です。ヒノテガ県、バジェダンタリ地方で生産されているジャバニカ種という希少な品種の豆です。
ロングベリーと呼ばれる、やや長細い形が特徴です。
ニカラグアで珈琲の生産が始まったのは、1790年代。カトリックの宣教師が苗木を持ちこんだのが始まりと言われています。
1900年代は政情が不安定で内戦も起こり、2000年に入ってからは価格の暴落や、たびたびハリケーンの被害に合うなど、厳しい状況のなか少しづつ品質が向上し
最近ではファンも多い生産国のひとつです。
長細い形が特徴のジャバニカ種。欠点豆は少なく、ほとんどが虫食い。発酵、カビ、から豆はほぼなし。
イチハゼまでは火力弱めでじっくり。ハゼてからは火力を上げ、焦がさないようさっと焼き上げます。
やや舌触りにいがらっぽさを残す豆ですが、淹れたてよりも少し置いて温度が下がってからの甘みはクリアです。
焙煎記録::ブレンド「行火」
12月の定期便ブレンド「行火(あんか)」
行火:木や土、鉄製の枠に豆炭火鉢を入れた暖房具。持ち運び用。
もとは仏教用語で、行(あん)は運ぶという意味があるそう。行灯=灯りを運ぶ、行脚=足を運ぶ、など。
珈琲も飲み物としてだけでなく、寒い日は熱々のカップを両手で包むと、とても暖かい暖房具になると、いいなと。
グァテマラ アンティグア ラアゾテアと、モカマタリをプリミックスで1バッチ。
香りと酸味のアクセント用なので、やや浅めに。火力は小さくして焙煎時間を長めにとる。
そのあと、グァテマラだけを焙煎。モカとプリミックスよりもやや強めの火力で。
ブルンジ ブルボンAA 初見。欠点豆は少なく、粒は中くらい。
焦がさずハゼさせないよう、弱火でとろとろ焙煎。時間も長め。
東ティモール。粒は大きく豆面がとてもきれい。虫食いが少々。今年の東ティモールはアラビカ100%ではなく、ロブとのハイブリットが入って来ていると聞いたけれど、粒はそれほど変化したように見えない。もしかしたらパストなのかな。
深めに焙煎しても、中煎りでもつやと膨らみがとてもいい。強火で力強いイチハゼから、火力を落としてニハゼ直前で煎り止め。
まとまりのなさはひとつの個性になって、味わいにグラデーションが出ている仕上がりに。もう少し、モカ系を足しても良いかもしれない。
エルサルバドル エルマハワル モンターニャ
ホンジュラスとグァテマラに挟まれるように位置するエルサルバドル共和国。
中米の、5つの国の中で唯一カリブ海に面しておらず、環太平洋火山地帯らしい、地震の多い地形。火山灰土壌で良質なコーヒー豆が生育しています。
サンテグジュペリの妻アントワーヌはエルサルバドルのコーヒー農園の娘だそう。「星の王子さま」の舞台はエルサルバドルがモデルになっている部分もあるとか。
粒は小さ目ながら、揃っていて虫食いなども少なく状態良好。
初見のため、何度か焼き比べてポイントを探ります。
火力をぎりぎりのところまで絞って、時間をかけて煎り上げていくのが一番豆の味が良く出る感じ。はじめに苦み、あとから軽やかな酸味。
いま流行?のワイニー精製ではないため、発酵臭はほぼなく、わりとあっさりした味わい。
焙煎記録:ブレンド「霜葉」
唐の詩人、杜牧(とぼく)の七言絶句「山行」から名前を頂きました。
遠上寒山石径斜
白雲生処有人家
停車坐愛楓林晩
霜葉紅於二月花
遠く晩秋の山に登ると、石混じりの小道が斜めに続いている
下界から離れたこんな高い場所にも民家がある
(手押し)車を止めて、何とはなしに楓の林の夕暮れを眺めている
霜がかかって赤くなった紅葉は、二月に咲く桃の花よりもずっと赤い
4種の豆のブレンドです。
メキシコ クステペック。粒は大きめ。
火力弱めで、長めに焼き、ハゼがきつくならないよう、じわじわと甘味を引き出す感じで。
落ち着いた香ばしさになります。
上記のメキシコと、ペルー マチュピチュをプリミックス(焼く前に混ぜる)。
メキシコ単体だと個性が出にくいので、ペルーとプリミックスしたものを、やや深めに焙煎。二ハゼぎりぎりのところまで。
イエメン モカマタリ。毎度ハンドピックに時間のかかる豆。ここを丁寧にやることで、仕上がりが大きく変わります。
粒が小さいので、火力強めで、さっと煎りあげる感じ。焼きあがってから再度しっかりハンドピック。
グァテマラ アンティグア ラアゾテア。半分を中煎り、半分を中深煎りに。
メキシコと、モカのつなぎ役の豆。酸味も苦みもあるバランスのよい味わいで、全体を安定させます。
メキシコをメインに、ペルー、とグァテマラを配し、アクセントにモカ。
落ち着いた香ばしさの奥に、鼻に抜けるモカの香りが楽しめます。
焙煎記録:ブレンド「猿酒(さるざけ)」
10月の定期便ブレンド。
猿酒とは、猿が木のうろや岩石のくぼみに蓄えた木の実や果実が自然発酵して出来たお酒のことを言うそうです。
ただ、野生の猿は食料を貯蔵する習慣がないため、実際は伝説上のお酒ということになりそうです。
秋の味覚が美味しい季節、芋栗南瓜、胡桃などを使った甘いものと相性が良いブレンドに仕上げました。
洋菓子なら、キャラメルを絡めた胡桃、スイートポテト、パンプキンパイなど。
和菓子なら、芋羊羹や栗あんの最中など。
濃い目に抽出して、ウイスキーをひと垂らしすれば、猿酒とは行かないまでも、ほんのり秋の良い心地を感じて頂けると思います。
使った豆は5種。
①タイチェンライ オリエンタルファズ。乾燥が進んできているので、ニュークロップが入るまではシングルを休止して、在庫はブレンドに投入。
もともとマイルドな味わいの豆なので、今回のブレンドではベースに。二ハゼを聞いてから冷却。中深煎りで。
②エチオピアグジクオリティ1
➂グァテマラ アンティグア ラ・アゾテア。見た目で乾燥しているかな、と思ったけれど、焙煎してみるとそうでもない。
焦がさないよう、弱火で長めに焙煎。水分が意外と多かったため思ったより長い焙煎になった。
酸味を残しつつ、バランスよく。
④ペルーマチュピチュ。エチオピアグジととても相性が良いので、苦みの要に。
深煎りで苦みを前に持ってくる。タイチェンライと並んでベースに。
⑤マンデリン ブルーリントン 今期で一番きれいなマンデリン。
二ハゼまで焼き切って、甘みとコク、ややスモ―キーな香りをアクセントに使います。
ネルドリップが最適だと思いますが、ペーパーなら、豆を多めに使い、ペーパー2枚重ねでじっくり蒸らして抽出すると良いと思います。
エチオピア モカ イルガチェフェG1 ゲディオ ナチュラル
エチオピア シダモ州イルガチェフェ地区の小規模農家の集買したものです。
ゲディオというのははっきりとはわかりませんが、精製する場所の名前、もしくは商品名です。イルガチェフェのモカは農園指定で買い付けが出来ないシステムになっているそうなので、シングルオリジンではありません。
標高1800~2200mとかなりの高地で水が潤沢ではないため、果肉がついたまま天日干しして脱穀するナチュラル製法で精製されています。このため、脱穀した後も果肉の甘酸っぱい香りがほのかに残っていて、(発酵臭とも言えるので好みは分かれるかもしれません))フルーティな酸味と華やかな香りが特徴となって出てきます。
欠点豆少なく、状態は良好な生豆でした。
イチハゼ直前から柑橘系の香りが強くたちのぼります。ナチュラルらしい大量のチャフが舞います。
イチハゼが終わった時点で火を止め、余熱でゆっくり転がしてから冷却。膨らみは上々。味わいはかなり濃厚。あとに苦みが残らず余韻はわりとすっきり。
9月も終わりに近づき、焙煎工房もだいぶ涼しくなって、室内の温度が30度前後までしか上がらなくなったので、石焼き効果のための鉱石の量を調整しました。
これから、本格的に寒くなるまでの間は、焦げが出ないようフードの開け閉めと、火力の微調整がデリケートな時期です。
焙煎記録:ブレンド「風日待」
9月の定期便ブレンド「風日待(かざひまち)」
風日待とは、二百十日の頃、風を鎮めるために村人たちが仕事を休んで神社に籠る行事のことです。
いまは形骸化していますが、私の地元でも明日は「お籠り」の日です。
収穫を前に風の神様を鎮める祭り、日々の生活からは遠ざかっている神事ですが、自然を畏れ敬う心もちを忘れずにいたいと思います。
プリミックスのグァテマラ ブルーレイクSHBとホンジュラスHG。生豆の画像撮り忘れました。
イチハゼから火力を落として、二ハゼ直前で冷却。
タイチェンライ オリエンタルファズ。パストクロップ(前年の豆)なので、やや乾燥が進んでいます。丁寧なハンドピックが必要。
焦がさないことを一番注意しつつ、二ハゼ始まるまでじっくりと。イチハゼが弱く、火力に気を使いました。
メインのメキシコ クステペックSHB。 豆が大きく、センターラインのはっきりした豆。
酸味を抑えるため、二ハゼのピークまでしっかり焼きます。
力強い風をイメージして作りましたが、仕上がりはなぜかまろやかで柔らかい口当たり。グァテマラの香りが効いていて複雑な風味になりました。
